《森 光年》
早いもので、もう梅の季節がやってまいりましたね。近畿地方では今週末~来週末あたりが見ごろでしょうか。 と思って大阪城公園の梅林の開花情報を伝えてくれるウェブサイト『大阪城梅林 梅だより』をのぞいてみたところ、なぜか昨年のシーズンオフ以降、更新が途絶えてしまっている様子です。 しかも最後の更新は人員削減による梅林の状態悪化をなげき、橋下市政を批判する内容。考えすぎかもしれませんが、何やらキナくさいですね。 この街の美しいものたちが効率化の名のもと無造作に壊されることのないよう、大阪市民としては切に願わずにおれません。 ともかく明日あたり、大阪城公園の梅を見に行って来ようと思います。 そんなわけで森光年なんですが、行ってまいりました大阪は日本橋電気街のバー『UMEYA』の最終日。 前回の記事でも書きましたように3月8日には宗右衛門町に移転して再オープンするとはいえ、日本橋の店舗には思い出がいっぱい。 惜別の想いをまぎらせようとするように、客もスタッフも一緒になっての大騒ぎでございました。 顔なじみの常連さんや初対面の方ともたくさんお話して素晴らしい時間を過ごせたのですが、なにしろマスターが高いお酒を景気よくふるまってくれたので飲みすぎましたね… ふつうカクテルに高級な酒はあまり使わないものですが(単体で飲んだ方が美味しいですからね)、その夜はサイドカーにVSOPのブランデー、ニューヨークにワイルドターキーのオールドボトル、という具合で。 ターキーのオールドボトルなんてマスターが以前、本来は1ショット1万円の値をつけたいと言っていた酒。 それをカクテルにするなんてある意味お酒に対する冒涜というものかもしれませんが、特別な日なので大目に見ていただきたい。
ニューヨークはライウイスキーかバーボンウイスキーをベースにしたスタンダード・カクテル。ウイスキーにレモンジュース、グレナデン(ざくろ)シロップを加えてシェイクしたもの。
くせの強いライやバーボンウイスキーが口あたりよく飲みやすくなるのですが、使うウイスキーによって味は千差万別です。 バランスも非常に繊細なバーテンダー泣かせのカクテルなので、マスターが客と一緒になって飲んだくれているようなときにオーダーするのは嫌がらせ以外の何ものでもありません。 が、そこはさすがに一流のバーテンダー。オールドボトルのワイルドターキーを使って完璧なニューヨークを完成させてくれましたね。 ひりつくようにスモーキー。ほろ苦く、そして甘美。 ニューヨークという名前のカクテルはこのような味であってほしい、という理想を体現した一杯でした。 で、しこたま飲んだ後でしたが最後にどうしても飲みたかったのがギムレット。ジンとライムをシェイクしたスタンダード中のスタンダード。 これまたシンプルゆえに難しくバーテンダー泣かせのカクテルですが、なにしろ二年と数か月前、私がUMEYAで初めて頼んだ一杯がこれでした。 あの日とおなじく、ライムはフレッシュとコーディアルを併用。 フレッシュだけを使うバーも多く、もちろんそれも美味しいのですがレイモンド・チャンドラーの小説『長いお別れ』でギムレットにあこがれた私のような人間は、作中で言及されているコーディアルを使ったギムレットに思い入れが強いのです。 思い出ぶかい一杯を飲み干し、日本橋電気街のUMEYAに別れを告げようとしたそのとき。 「モエ・エ・シャンドンあけまーす! 飲むひとー!」と、マスターの陽気な声。 ええ、気が付けば手をあげていました。そりゃあ飲みますよモエですよ。 しかも酔っぱらいのおそろしさ、上等のシャンパーニュにパスティスを注がせるという暴挙に出ましたよ。 パスティスはフランスのマルセイユ地方で作られ、同地で愛飲されているアニスのリキュール。 とても癖が強く苦手な人も多いのですが、スパークリングワインと混ぜて飲むとすごく美味しいのです。 この飲み方を考案したのがかの文豪ヘミングウェイで、彼の短編のタイトルから「午後の死(デス・イン・ジ・アフタヌーン)」と命名されております。 ヘミングウェイいわく、午後の死にはシャンパーニュ、それもマムズを使うべきだと銘柄まで指定していますが、バカ高いシャンパーニュでカクテルを作るようなお大尽な真似がそうそうできるはずもなく(有名な話ですが、フランスのシャンパーニュ地方で作られたスパークリングワインのみがシャンパーニュあるいはシャンパンを名乗れます)。 ふだんは普通のスパークリングワインで午後の死を楽しんでいたわけですが、モエ・エ・シャンドンで作った午後の死の美味かったこと美味かったこと! まさに至福の一杯でありましたが、わたくし、忘れていたのでございます。午後の死はきわめて酔いやすいカクテルであることを。 案の定、その後の記憶がとぎれとぎれで…なんとか無事家に着いたものの、どうやって帰ってきたのやら… あんなに深酒してしまったのは学生のころ以来だったかもしれませんねえ。いい歳をしてなさけない… |
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