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江口洋介版『木枯し紋次郎』について
《森 光年》
近所にある回転寿司チェーンは寿司を乗せた舟が循環する形式なんですが、そこの店頭に「お舟が廻る回転寿司」というキャッチコピーの書かれたのぼりが立っておりまして。
先日、遠目にそののぼりを見かけた際、「お前が廻る回転寿司」と錯覚してしまいました。疲れていたのかもしれません。っていうか、なんでそんな上から目線なのか。お前が廻る回転寿司。完全に客を見くだしている!


そんなわけで森光年なんですが、もう二週間ぐらい前になりますけども『木枯し紋次郎』の新作(!)が二時間のスペシャルテレビドラマとして金曜プレステージで放送されていましたね。なんの前情報もなく、たまたまテレビをつけたら頬に傷のある咥え楊枝の渡世人が映っていてびっくり。しかも、主演が中村敦夫さんでなく江口洋介で二度びっくりでした。


↓めざましテレビでの紹介



で、最後まで見たわけですが、面白かったです。
つねに何らかの謎を提示し続けることで視聴者の興味を牽引していくストーリーは中村敦夫版のそれを忠実に継承していて安心感がありました。
そもそも『木枯し紋次郎』の原作者である笹沢左保は非常に多作なミステリ作家であり(故人となった現在も氏の作品を原作とした2時間サスペンスドラマが制作され続けていますね。元刑事のタクシードライバーが事件を解決しちゃうあれですが)、そのため『紋次郎』の原作小説も(それが物語の中核を担うわけではないにしろ)ミステリ的な仕掛けや謎が味付けに用いられているという、ちょっとひねった時代物小説だったわけで。

このへん、短編でも長編でも大なり小なりミステリ的な(あるいはSF的な)謎や仕掛けが用意されている『涼宮ハルヒ』シリーズの作者、谷川流と共通したものがあると思います。本当は直球の本格ミステリで勝負したいんだけど、自分にはそれはできないと自覚している変化球タイプ……と表現すると語弊がありますが。
本格ミステリというのは、ある意味まともでない天才のみが踏み込める領域ですので、笹沢さんや谷川さんのような良くも悪くもまともな秀才タイプの(だけどミステリが大好きな)作家にとっては、憧れはあれど敷居が高い。で、そういう屈折した思いが、紋次郎やハルヒのようなひねりのきいた名作を生み生み出す原動力となったのではないかと、そう邪推するわけですな。

話が脱線しましたが、江口版紋次郎について。
紋次郎といえばなんといってもあの泥臭い殺陣シーンですが、ややあっさりしていたのと、紋次郎が普通に強そうだったのがちょっと残念でしたが(必死に転げまわって紙一重の差で辛勝するのが紋次郎だと思います。まあ、江口版も最後の殺陣はそんな感じでしたが)、血しぶきのエフェクトやなんかはビートたけしの座頭市っぽいというか、最新技術が活かされていてリメイクの甲斐があったと思わされました。斬り合いの前に紋次郎が楊枝を鳴らし木枯しの音をたてるシーンのエフェクトも身震いするほどよかった。

江口洋介の紋次郎は、最初のほうこそ台詞まわし等にやや違和感がありましたが、終盤にはすっかり紋次郎と一体化していたあたりさすがでした。できれば今後とも、不定期でもいいので江口版の続編が作られることを期待しております。


あとはなんといっても、ちょい役とはいえ中村敦夫がゲスト出演していたのが心憎い演出でしたね。
そしてなにより、ここが今回のブログ記事の最重要ポイントなわけですが、江口版紋次郎は『必殺仕事人2009』の裏番組だったのです! あえてやったのだとしたら、これを考えた人は心憎すぎます。なにしろ、今をさかのぼること30年以上前、必殺シリーズの第一作目『必殺仕掛人』は『木枯し紋次郎』の裏番組としてスタートを切ったわけですから。
当時すでに『木枯し紋次郎』は絶大な人気を獲得しており、それに対抗するために殺し屋が主人公という当時では考えられなかったアナーキーすぎる内容でもってその人気に対抗しようとしたその試みこそが、現代まで続く必殺シリーズの礎となったわけで。いわば紋次郎と必殺とはコインの裏表。切っても切れない関係なんですね。

余談ながら、私の好きな時代劇のツートップは『木枯し紋次郎』と『新必殺仕置人』です。順位はつけられない。ちなみに『翔べ! 必殺うらごろし』も違う意味で好きですが、まあそれはどうでもよろしい。
さておき、故意か偶然かその紋次郎の新作が、必殺シリーズの新作の裏番組に来るという三十数年の時空を超えたこの展開。私はひとり心の中で飛び跳ねて喝采しておりました。
 

雑記 | 2009/05/14(木) 20:18 | コメント(0) | トラックバック(0)
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