《森 光年》
こちら経由で知ったんですが、モード界の皇帝の座にありながら自ら選曲したCDアルバムをリリースしたり、ゲーム『GTAⅣ』で作中のラジオ番組でDJをつとめたりとファンキーな活動を続けるカールおじさんことカール・ラガーフェルドが、今度はついに人工島の建設に着手したそうです! カール・ラガーフェルドが、ファッション島を建設!(VOGUE.COM) といっても、ドバイ沖に建設される複合リゾートのデザインをするだけなんですけどね。とはいえ、ファッションデザイナーが手がける作品としては史上最大規模になるんじゃないでしょうか。 きっと皇帝カール陛下のことですから島にひそかに秘密の宮殿を建造し、半裸の美青年をはべらせたりビキニ美女に泥レスリングをやらせたりしながら面白おかしくカリギュラのような暮らしをするのでしょう。うらやましすぎる。カリギュラ暮らしのラガーフェルド。 さておき森光年なんですが、以前にも言及しました映画『シングルマン』を見てまいりました。 A Single Man - Official Trailer [HD] ↑前回貼ったのとはちがうトレーラーを とても丁寧に作られた、映画への愛を感じるいい作品でした。同性愛描写に抵抗のない方にはおすすめです。 あらためて説明しますと、1960年代のアメリカ、予期せぬ事故により最愛の恋人を失った同性愛者の大学教授が喪失感を抱えた八ヶ月の生活の後に自殺を思い立ち、今日が最後の一日と決めて身辺整理を始める……というこの映画、監督は90年代のラグジュアリー(贅沢)ブランドが軒並み零落するなかグッチのデザイナーに就任し、同ブランドのイメージを刷新して窮地を救ったトム・フォードで、ファッションの世界では頂点を極めた彼の映画初挑戦作品となります。 この『シングルマン』が各地の映画祭で好評で、それに気をよくしたのか第二作目にも取り掛かっているそうですから、本格的に映画監督としての活動を続けていくのでしょうかトム・フォード。 ファッションデザイナーとしても超一流、映画監督としても才能があり加えてハンサム(→参照)。どこまでもチートスペックな男です。 さて、詳細な感想ですが。
なんといっても映像の美しさ、そしてフェティッシュさに心を奪われました。
人の仕草や顔のパーツ、日常の小道具や自動車などに注がれる監督の視線がとにかくねっとりとフェチっぽく、しかし下品にならない感じでいいんですね。世界的デザイナーはこういう視界で世の中を見ているのか、と唸らされました。 個人的には自殺を決意した主人公が鞄に入れて持ち歩く(この鞄もまた男心をくすぐるフェチっぽさで描写されているのですが)年代ものの中折れ式リボルバーの撮られように心ときめきました。ハンマー部分だけ表面の仕上げがちがっているのが光の加減で強調されたりして、ガンマニアにはたまりません。 主人公がベッドの上で拳銃を咥え、しかし引き金をひく決心がつかずに角度を変えて幾度も銃身を咥えなおすシーンなんて監督の偏愛ぶりがうかがえて素敵でしたね。 女性が銃身を舐める描写は巷間よくみかけるものですが、男性バージョンは珍しい。 ほかに面白かったシーンといえば、自殺を前に身辺整理する主人公が自身の遺体に着せるスーツとシャツ、革靴やカフスやネクタイまで遺書とともに机の上にならべ、『タイはウインザーノット(ネクタイの結び方のひとつ)で』というメモを添えるところが最高でした。伊達男はかくありたいものです。 このエピソードのように全編にわたって服に対する強いこだわりが感じられる映画でしたが、とくに登場するスーツがどれも最高に美しかった! さすがはトム・フォード……と言いたいところなのですが、トム・フォードのスーツといえば前進翼機の羽根のごとく尖がった襟をしているイメージがあるのですけれど、映画の登場人物たちは1960年代という舞台設定もあってかクラシカルな印象のオーソドックスな(しかしシルエットが溜息の出るほど美しい)スーツを身にまとっていて、そのことが気になっていたんですね。 で、後日ある雑誌のインタビューで知ったんですが、この作品でトムは自身のブランドの商品は一切使用せず、映画のためだけにいちから服を用意したのだそうです。 ファッションデザイナーが衣装を担当した映画(あの珍作『フィフス・エレメント』のような!)的なあつかいを受けたくなかったゆえの配慮でしょうか。とにかく映画にかけるトムの意気込みが伝わってくるエピソードです。 あとは、なんといっても特徴的なのが男性に対する目線でしょうね。 ルイ・ヴィトンのデザイナーであるマーク・ジェイコブスがイタリア人男性と同姓婚したり、ドルチェ&ガッバーナのドルチェさんとガッバーナさんが付き合っていたり(いや、別れたんだったか?)と同性愛に関してわりあいオープンなファッション界ですが、トム・フォードもまたヴォーグ誌の男性版の編集長(男性)と長らく付き合っていることを公にしています。 そんな彼の映画ですから、男性に注がれる視線がとにかくフェティッシュで愛に満ちています。男性同士のキスシーンも美しい。トム自身の体験を元にしているのか、同性愛に対する世間の無理解や偏見についても作品にさりげなく織り交ぜられていて胸に迫るものがありました。 反面、女性はかなりグロテスクさを強調して撮られているように思えて、劇場の座席の半数以上を占めていた女性客のみなさんはこれをどう感じているのだろうと要らぬ心配をしてしまいました。 そういえばなにかのインタビューでトム・フォードがこの映画の出演者たちに関する質問に答えているのを読んだんですが、主演のコリン・ファースや彼に情熱的にアプローチする青年役のニコラス・ホルトについては饒舌なまでにその魅力について語っていたトムが一転、主人公の元恋人(女性)役のジュリアン・ムーアに関して聞かれると劇中の彼女がどういう役柄かだけを淡々と述べていたのが印象的でした。 そんな女性嫌悪ぎみなトム・フォードがかつてグッチのデザイナーをつとめ、世の女性たちの心をわしづかみにする商品を送りだしていたのはつくづく面白いことですね。 グッチをやめ、自身のブランドを立ち上げてからはここ6年ほどレディスのデザイン活動を休止してた彼ですから(現在は再開したようですが)、本当は男性の服だけデザインしていたかったんでしょうね。 |
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