《森 光年》
このあいだの春分の日、3月20日の夜のことです。 そういえば今年の日本橋ストリートフェスタはいつ開催するんだと不意に気になりまして調べてみたら、まさしくその日の日中に開催されておりました……なんてこった。 西の電気街、日本橋の大通りを歩行者天国にして盛大に行われるこのイベント、昨年は震災の影響で中止になってしまったので2年ぶりの開催だったのに。この日ばかりはおおっぴらに町を練り歩くレイヤーさんたちの姿を例年楽しみにしていたんですが、本当に残念です。 どうやら春分の日に開催されるのがいつのまにか固定になったみたいですね、ストリートフェスタ。以前は日にちが定まらずふらふらしていたので(GWに開催したりとかしてましたよね)その印象に引きずられておりました。来年からは絶対に忘れないようにします。 で、おのれの不覚に身もだえしつつYouTubeで検索してみたら、当日の夜だというのにフェスタの模様を写した動画が出るわ出るわ。参加者の熱意に胸を打たれると同時に、自分がそこにいられなかったことがよりいっそう悔しくなりました。 第8回日本橋ストリートフェスタ そんなわけで森光年なんですが、大阪西区は新町の人気中華料理店『酒中花 空心』のお隣に新しいパティスリーがオープンしているという噂を聞きおよびまして、先日でかけてまいりました。 『やまもと菓子店』という名前のそのお店、オープンは昨年の10月だそうで、今月発売の近畿ローカル情報誌で紹介されているのを読むまで半年ちかくも存在に気がつかなかったことになります。 以前はよく訪れていた新町界隈(美味しい和菓子屋さんがあったりカピパラやアルパカが見られたりするので)、最近は足が遠のいていたのはたしかですが、それにしても不覚すぎます。情報に対するアンテナの感度が低下しているなあと反省することしきり。 さておきこのパティスリー、製造から接客まで男性が一人できりもりしているという珍しいパターンなんですよね。しかも店主の方がお若い。 若くしてパティスリーを開業した男性というと、いわゆる草食系な人物を想像されるかもしれませんが、この方はそれとは正反対の気さくで快活な雰囲気。はなはだ失礼な表現ですが、なぜこの人がパティスリーを? と驚かされます。 むきだしの厨房と手狭な売り場とがダイレクトに面している店内の構成もパティスリーらしからぬ独創性にあふれていて(パン屋さんではこういうの見たことありますが)いかにも男性的。洋菓子屋さんはあのおしゃれな雰囲気が入るのに気後れして……という男性にも安心です。 私が訪問したときにならんでいたのはショートケーキやモンブラン、チーズケーキなどの洋菓子屋さんの定番人気商品系とモダンな造形のオリジナルのケーキが数点。そんななかで異彩を放っていたのはフランス菓子の古典中の古典、サンマルクでした。
サンマルクはチョコレートムースと生クリーム(ヴァニラムースの場合も)の二つの層をアーモンドたっぷりのしっとりとした生地ではさみこみ、表面をキャラメリゼ(グラニュー糖を焦がしてカラメル状にすること。フランス語はいちいち洒落てやがります)したシンプルなお菓子で、これがあるということは正統派のフランス菓子に正面から取り組んでいるお店であるという証拠。
寿司職人の技量がコハダに、シェフの実力がプレーンオムレツに現れるのとおなじく、サンマルクを食べればそのパティシエの腕前や個性、菓子作りに対する姿勢などすべてが一目瞭然(たぶん)。 これは注文するしかない、と心に決めて順番待ちをしていたところ、私の前に入店していたお客さん(大学生風の男性。おそらく「俺はこんな洒落た店知ってるんだぜ」アピールをするため彼女にケーキを買って帰る途中)にお勧めを聞かれた店主さん、サンマルクをプッシュし始めました。 なんてこった! これではまるで私がその会話を耳にしてサンマルクに興味を持った軽佻浮薄な人みたいではないですか! いや、まあそんなこといちいち気にすることではないんですが。それでもそういうちっぽけなプライドを捨てきれないのがオタクの業なんでしょうかねえ…… ともあれ学生風のお客さん、フランス菓子をよく知らないらしく勧められたサンマルクに対し難色をしめします。そりゃあそうでしょう。見た目が地味なら説明を聞いてもいまいち美味しそうに感じられない(食べたら美味しいんですよ!)のがサンマルクですから。 しかしながら店主さん、食い下がることなくサンマルクの魅力を熱く語り始めます。どうやらよほど思い入れがあるようで、「地味なケーキなんですが、これ以上は手をいれようがないほど完成されていて……」と語る言葉に同じサンマルク好きとしていちいちうなづかされます。 結局その学生風のお客さんもサンマルクを買って帰り、店主さんの情熱に心打たれた私もやはりサンマルクを購入。家に帰ってコーヒーを入れていただきました。 サンマルクにはパティシエのすべてがあらわれる、と前述しましたが『やまもと菓子店』さんのサンマルクは一言でいって剛毅。美味しいというよりはうまい、うまいというよりはうめぇケーキでした。 とくに印象的だったのは表面のキャラメリゼの、これでもかという焦がしっぷり。がしがしとした食感としっかりした苦味。けっして焦がしすぎてしまったわけではなく、しっかりとした菓子作りの方向性があってのこのキャラメリゼなのだと感じさせます。 全体のバランスも洗練とは対極に位置する荒削りさ。しかしそれが堪らない魅力となっており、ハイテンションにさせてくれるお菓子でした。 一緒に購入したチョコレートのカヌレも表面はカリカリ、中はプリンのように滑らかでチョコレートの香りがしっかりと強く、美味でございました。 これからの躍進がとても楽しみなお店です。ケーキの箱詰めに苦戦されておられたようなので、はやくヴァンドゥーズの方を雇う余裕ができるとよいと思います(ひとりでやる主義の方なのかもしれませんが)。 みなさまも、お近くにお立ち寄りの際にはぜひ。新町界隈はレストランやバール、カレー屋などがひしめきあっていて飲食には最高の町です。 |
|
|
| 最初のページ |
|