《森 光年》
先日、ちょっと気落ちすることがあって、日本橋の電気街のバー『UMEYA』でひとり飲んでおりまして。 消沈した私を見かねたのかバーテンダーさんが「これは私からのおごりです……」というドラマのような台詞とともにカクテルを作ってくださいました。 グラスの縁にレモンを絞って塩を盛り、スコッチウィスキーとトマトジュースをステア。供されたのは『バノックバーン』。14世紀、圧倒的な戦力をほこるイングランド軍に対し、兵力で劣るスコットランド軍がゲリラ戦でこれを退けたバノックバーンの戦いにちなんで名付けられたカクテルです。 両軍ともに多くの死者を出したというこの戦い。トマトジュースの赤は流された血をイメージしているのでしょうか。 勇敢に戦って傷ついた戦士の血。傷ついた私へのバーテンダーさんからのねぎらいの気持ち。飲み干すとなんだか気力が湧いてきて、とても救われた気分になりました。 ドラマ化もされた漫画『バーテンダー』の一場面のようなこんな出来事、本当にあるもんだなと思わず苦笑い。でも本当に嬉しかったです、ありがとう。 そんなわけで森光年なんですが、今にして思えばバーテンダーさんの心遣いやカクテルに付与されたエピソードが心に染みたのもさることながら、トマトジュースの酸味と滋味とグラスの縁に盛られた塩が打ちのめされた心と体に効いたのでしょうね。 これからは気分が沈んだときにはトマトジュースのカクテルを飲むようにしようと思います。 とはいえちょっと調べてみると、バノックバーンのレシピはバーによってさまざまで、どのバーで頼んでも私の心を癒してくれたあのバノックバーンに出会えるというものでもないようです。 スコッチウイスキーを使うのは共通しているものの、ステアだったりシェイクだったり、トマトジュースでなくメキシコでよく飲まれるクラマト(ハマグリのエキスが入ったトマトジュース)を使ったり、さらにはクラマトとウスターソースとタバスコを入れたりする場合もあるようで! メキシコにはビールにライムやレモンなどの果汁を入れるミチェラーダというカクテルがあるそうですが、これにも地域によってさまざまなレシピがあり、ウスターソースとタバスコを入れる場合もあると聞きます。 クラマトにミチェラーダ風のウスターとタバスコ。霧深いアイルランドの古戦場が一気にラテンの雰囲気ですね。 カクテルというのは本当に面白いものです。 |
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