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『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は作品内容に忠実に訳すと『ライ麦畑の捕手』
《森 光年》
ふと思い立って本棚からギャビン・ライアルの『深夜プラス1』を引っ張りだしてきて再読しておりました。

現在はすっかりすたれた冒険小説というマイナージャンル(現代かそれに近い時代を舞台に、銃とか車とか酒とか服とかガジェットの細部にこだわりつつプロフェッショナルな男が大冒険するおっさんのロマンむきだしの小説。ようするにジェームス・ボンドみたいなやつを想像してください)の代表的名著です。

好きな箇所をちょいちょいつまみ読んだりはしていたんですが、通しで読むのは10年ぶりくらいでしょうか。若いころとは自分の視点が変わっているのがわかって面白いですね。
当時は読み流していたけれど今回はとても心に残った台詞があったので、少し長いですが引用します。
不安と緊張にさいなまれる日々のせいでアルコール依存症になったガンマンが、酒の味がわからなくなったつらさを語る場面。

以下引用。

「パリでマーティニの本当の作り方を知っている店に入っていくところを覚えている。ひる頃、人ごみにならないうちに行くとていねいに作ってくれる。相手も嬉しいのだ。うまく作ったのを本当に味わってくれる客が嬉しい。だからその客の分はていねいにやる。慎重に時間をかけて作る。こちらも同じ気持ちで飲む。相手はそれがまた気に入る。何杯も注文してもらおうとは考えていない。時たま、そんな客が来て自分たちの腕をふるうのが嬉しいのだ。それを喜んでもらえれば満足なんだ。哀れな存在だよ、バーテンというのは」
(ギャビン・ライアル 『深夜プラス1』 菊池光 訳)


引用終わり。

そんなわけで森光年なんですが、これぞまさにバー好きにとっては解説も付け足しも不要な名文句。すぐにでもバーに行きたくなります。

野暮を承知で解説するなら、カクテルの王様ことマティーニは今でこそマティーニという呼称で統一されていますが、かつて日本ではマーティ二とかマルティニとか呼ばれておりました。
マティーニについては昔からそれについて語りだすと本が一冊書けると言われ、実際、バーテンダー協会の公式レシピブックには100種類のマティーニが載っていたりしますので、私ごとき若輩があれこれ言及するのは控えます。

あと、個人的にはバーテンダーさんをバーテンと呼ぶのはあまり好きではありませんね。タクシーの運転手さんを運ちゃんと呼ぶような蔑視が感じられて。


ちなみに全くの余談ですが『深夜プラス1』というこのタイトル、よくバーの名前などになっていたりして作品自体の知名度以上に世間への浸透率が高いです。
おなじくギャビン・ライアルの作品に『もっとも危険なゲーム』というのがありまして、じつは私『深夜プラス1』よりこっちのほうが好きなんですが、このタイトルも昔からアニメのサブタイトルやなんかでしきりに使われておりますね。

ただ、作品を読めば分かるのですがこの『THE MOST DANGEROUS GAME』の『GAME』はいわゆる遊戯のことではなく、狩りの獲物というもうひとつの意味。つまりは『もっとも危険な獲物』と訳したほうが本当は正しいんですね。

もちろんこの邦題のほうがネタバレもしませんし、遊戯と獲物のダブルミーニングにもなっていて、いわゆる名誤訳(『ドクター・ストレンジラブ』をあえて『博士の異常な愛情』と訳したような)なので、こうしたつっこみは野暮というものなんですが。

世界中を経めぐって危険な獲物を追い求めてきたハンターが、ついに出会ったもっとも危険な獲物とはなにか、をサブテーマとするこの小説。
物悲しいフィンランドの情景と、孤独な男たちの奇妙ではあるが純粋な交情が心を打つとても良い小説です。古い作品ですが、興味のある方はぜひ。
 

雑記 | 2013/03/28(木) 21:18 | コメント(0) | トラックバック(0)
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